淡い毛色に青い目、顔や耳、足先、しっぽに濃い色が入った猫を見ると、多くの人は「シャム猫」と呼びます。タイでは、同じような猫を Wichien Maat(ウィチアンマート、วิเชียรมาศ) と呼ぶこともあります。
この2つには確かにつながった歴史があります。ただし、現在の言葉としては、いつも同じ意味になるわけではありません。ウィチアンマートはタイの在来猫としての文脈を持ち、国際的な猫種資料でいう Siamese は、海外で長く繁殖と品種標準が整えられてきた現代のシャム猫を指すことが多いからです。
どちらが本物か、という話にしてしまうと見えにくくなります。大切なのは、タイの在来猫の話をしているのか、現代の国際的な品種標準の話をしているのかを分けて考えることです。
ひとつのルーツから、2つの意味へ
ウィチアンマートは、体は淡い色で、目は青く、顔、耳、足、尾など体の先端に濃い色が出る猫を表すタイ語の名前です。このタイプの猫は19世紀にシャムから海外へ渡り、外国では Siamese cat として知られるようになりました。
その後、海外のキャットショーや計画的な繁殖によって、現代のシャム猫にははっきりした外見の基準が作られていきます。CFAは、細長い体、長く先細りしたくさび形の頭、大きな耳をシャム猫の特徴として説明しています。一方、TICAのThaiは、より中庸でバランスの取れた体型と、柔らかさのある輪郭を重視します。
つまり、歴史的な出発点とポイントカラーという特徴は共有していますが、その後の育てられ方と評価される形が違ってきた、ということです。
見た目では、どこが違って見える?
ウィチアンマート、または Old-Style Siamese と呼ばれるタイプは、中くらいの大きさで全体のバランスが取りやすく、頭部はくさび形でも極端に細長くありません。現代のショータイプのシャム猫は骨格がより細く、体が長く、頭のくさび形が強く出て、頭に対して耳も大きく見えます。
観察するときは、次のように整理するとわかりやすいでしょう。
- **ウィチアンマート/Thai:**中庸でバランスのよい体つき、やや幅のある頭部、青い目、短いポイントカラーの被毛。
- **現代のシャム猫:**細長くすらりとした体、長いくさび形の頭、大きな耳、アーモンド形の青い目。
もちろん、これはあくまで目安です。実際には混血の猫も多く、2つの説明の間に見える猫もいます。「アップルヘッド・シャム」という呼び方も一般には使われますが、地域や人によって意味が違い、TICAの正式な品種名ではありません。品種を確かめたい場合は、顔つきだけで決めず、繁殖の記録や血統書を確認する必要があります。
古い猫の文献から、何がわかる?
タイには Tamra Maew(タムラ・メーオ) と呼ばれる猫の文献群があります。猫の見た目や、幸運・不運に結びつけられた特徴を描いた折りたたみ式の写本などです。これらの資料からわかるのは、タイの人々が昔から猫を観察し、名前をつけ、文化の中で記録してきたということです。
一方で、資料があるからといって、後世の伝説まですべて証明できるわけではありません。米国議会図書館が所蔵する写本のひとつは、19世紀のタイ中部の折り本で、作者や正確な成立年はわかっていません。複数の版や後世の写本もあるため、すべての図を14世紀にさかのぼらせたり、「王宮だけで飼われていた」「寺を守っていた」といった話を史実として断定したりするのは慎重であるべきです。
ウィチアンマートは、どうして海外で Siamese になったのか
タイ外務省の資料によると、1884年、チュラロンコン国王は英国領事にウィチアンマートのつがいを贈りました。この猫たちは英国で注目を集め、ロンドンのコンテストを通じて、シャムから来た猫がより広く知られるきっかけになりました。
その後、欧米の繁殖家は特定の特徴を選び、より細く長く、角度のある現代的なシャム猫の系統を発展させました。同時に、より中庸な昔ながらの体型を残そうとする人々もいました。こうして、Siamese、Thai、Old-Style Siamese、Wichien Maat は関連しながらも、常に置き換えられる言葉ではなくなっています。
ウィチアンマートは Old-Style Siamese と同じ?
重なる部分はありますが、使われる場面が違います。TICAのThaiは、ウィチアンマートや西洋で初期に知られたシャム猫に近い、伝統的な体型を説明する品種名です。タイでいうウィチアンマートは、在来の猫の集団、タイ語の名前、そして土地に根づいた記憶と結びついています。
そのため、体型が中庸なポイントカラーの猫をすべて「純血のウィチアンマート」と呼ぶことも、現代のシャム猫をタイと無関係だと言い切ることも適切ではありません。血統、繁殖の背景、どの登録基準を使うかを合わせて考える必要があります。
タイでウィチアンマートが大切にされる理由
2025年11月、ウィチアンマートは、スパラック、コラット、コンジャ、カオマニーとともに、タイの5つの在来猫のひとつとして、ペット部門の国家的シンボルに認められました。この決定によって、ウィチアンマートは海外の猫種史だけでなく、タイに生きる在来猫と、その知識を守る話としても捉えられるようになります。
メガバンナー近くの Siamese Cat Café では、ウィチアンマート、ベンガル、そして保護・譲渡された猫たちが一緒に暮らしています。来店したら、青い目やポイントカラーに気づくかもしれません。でも、猫が近づくか、休むか、離れているかは猫に任せてください。猫は歴史を演じるためにいるのではありません。
タイの在来猫としての背景をさらに知りたい方は、ウィチアンマートが大切にされる理由もどうぞ。


